宣戦布告

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洋もののビデオも新作は一通り見てしまい、たまたま「宣戦布告」が目に入ったので、さてどれくらいの出来だろうかと、ちょっとばかり期待してみた。

日本映画は、大体において時間の無駄になるか、見終わってから欲求不満になるので、しばらく遠ざかっていたのだけれど・・

fightingnotice.jpg

原作は麻生幾の同名小説。

ストーリーは、原発が密集する敦賀半島沖に国籍不明の小型潜水艦が座礁、北朝鮮(オッと・・)ではなく「北東人民共和国」の特殊部隊が日本に上陸したというところから始まる。

 

映画が始まると、最初に潜水艦の後方からを水中を遠ざかって行くシーン。

その後、上空から東京の夜景をナメながらテロップが流れるシーンにいきなりスイッチ。

まず最初の潜水艦のシーンの意味が不明。

あのあとで、座礁するまでの経緯なり、何かの伏線を張っておくのが、セオリーでしょうに。

それがないのなら、あのシーンはいらない。

かえって邪魔。

映画の最初の部分というのは、観客の期待が一新に集まる部分なのだから、こういうところは、十分に見る側の心理を考え、手抜きをせず撮って欲しいもの。

冒頭から、これだけ気が散るのはちょっとねえ。
 


次のシーン。

官庁らしき建物の窓を東京の夜景の空からズームアップする。

ハリウッド映画だと、そのまま「ツギハギ」なしの1ショットで、窓の中へズームインする。

このショットはどう考えても、そういう流れだ。

なわけで期待していたら、途中の何とも中途半端な位置で、いきなり部屋の中のシーンへ、ツギハギで切り替わる。

あれー・・・ それはないでしょう。

編集段階で誰もこの点を問題にしなかったのか。

ヘリを飛ばすだけで、それ以上の予算がないのかなあ、と冒頭から余計なことを考えてしまう。

なら、もっと違うアプローチを考えて欲しかったなあ。

というようなところが気になって、なかなか映画に没頭できない。
 


それと、いまさら座礁した潜水艦が「北東人民共和国」なんてのはやめたらどうか。

ハリウッドなんて、堂々と国名出しまくりでしょう。

何を遠慮しているのかよくわからんが、こうしたところですでに腰が引けているのは、いかがなものか。

そして潜水艦の座礁シーンだが、予算削減のためか、撮るアングルがおかしいというか、何だか不自然。

ここに配役などの詳細があるが、主演は古谷一行、脇役に佐藤慶などというように配役はそれなりに固めている。

戦闘シーンの現場と東京の首相官邸を舞台として、日本映画としては比較的速いテンポで展開する。

首相官邸内での派閥がどうのこうのというのは、日本映画お得意のパターン。

この部分まで来ると、冒頭のシラケ感も少し持ち直す。

よしよし。
 


潜水艦から上陸したらしい小型火器を持った十数名の特殊部隊(ゲリラ)に、その何十倍の人数の警察や自衛隊がバタバタと倒されてゆく。

警官が発砲するにも、自衛隊が出動するにも、いちいち法解釈、憲法解釈などで手間取り、現場は混乱して犠牲者が増えるという設定。

法的解釈と政治的な駆け引きが、結果として現場で事態に対処する警察や自衛隊の手足を縛り付けてしまうという設定は、いいと思う。

自衛隊の出動が「宣戦布告」をしたことになる、というのがこの映画のタイトルになっているようだ。

日本側の警察の特殊部隊とゲリラとの戦闘シーンで、日本側の仲間がやられて死ぬ間際に、「おいしっかりしろ」というようなお決まりのお情け頂戴場面が挿入されている。

アメリカ映画の戦闘モノでは定番の見せ所だ。

ニコラスケイジ主演のウインド・トーカーズでは仲間が死ぬたびに、このシーン。(笑)


最後の方になるとちょっとウンザリだったけれど、それでもその前にお互いの人間関係や家族との絆とかをしっかりと描いているから、戦闘シーンとのメリハリがついて、きちんとエンターテイメントとして楽しませてくれる。

こうした仕掛けは、普通その前に仲間同士が一緒に訓練をする過程などを入れて、お互いの友情なりを観客が共有するという伏線があってこそ効くのだ。

それを一切省いて、こういうシーンを入れられても、こっちは「あっ、誰か知らないけど、仲間がやられたね、お気の毒」で終わり。

こうしたところをしっかり時間をかけて描いておいてくれないと、見ている側は「戦友の死」を悲しむ感情に入り込むことができないではないか。

せっかく派閥がどうのという部分で俳優達が頑張っているのに、こういう映画の基本的な作りのミスで盛り下がるのは、勘弁して欲しい。


 
その後「共和国」が「核ミサイル」の発射態勢にはいったという話になり、韓国、中国などアジア諸国からアメリカ、ロシアまでが臨戦態勢に入る。

ここでの緊張感はとてもナイス。

「やるじゃん」と思っていたら、「共和国」が「核ミサイル」の発射態勢を解除し、そのあと何だか急転直下で盛り下がって、首相が辞任してしまい、ハイおしまい。

おいおい。

それはないだろうが。 

企画から公開まで約4年を費やした大作だそうだが、普通こうした映画では、戦闘で命を賭ける側と、戦闘を命じる政治家側との葛藤や矛盾をストーリーに絡ませるものだ。

それがほとんどないというか、あっても描き方がおざなりのため、映画自体に、何というのだろうか厚みがない。

これは日本映画が常に抱える問題で、いまだにこのレベルがクリアできていないのはどうしたことか。

この監督はハリウッドで、映画を勉強したらしいが、エンターテイメント作品としては、抑えるべき場所を抑えていないため、かなりお粗末と言わざるをえない。

映画としては3流の作品だ。

だが、日本の抱える「危機管理の不備」を訴える点で、かろうじて映画を作った意味があるのかもしれない。

念のために口直しの洋画をあと2本借りていてよかった、ということになってしまった。

残念なり。
 

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