武士の一分

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安心して楽しめる日本の映画をご紹介。

観終わって、まずはめでたいというか何となく嬉しい気分になることができる数少ない日本映画だ。

「武士の一分」の 映画としての成功の要因は、「ほどよいバランス」だといっていいだろう。

監督の「寅さん」での経験が生かされているからだろうか、日本人の監督でしか描けないであろう「日本」らしさが映画の随所に散りばめられている。

そして登場する役者のキャラクターが役どころに合っているため、観客が演技を意識させられることなく、映画そのものを楽しめるというのも、成功の大きな要因だろう。

ストーリーは単純だが、それぞれの場面が丁寧に描かれているうえ、日本映画にありがちな、納得のゆかないエンディングが見事に回避されている。

これは見終わってからの充実感に繋がるため、これは大きな要素だといっていいだろう。

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もちろん欲を言えば注文をつけるところはいくつかあるが、一本の映画としての作品でいえば、きちんと商品として通用するものに仕上がっている。

キムタクのファンでなくても楽しめるうえ、脇役も手堅いところで固めている。

彼の妻を演じた宝塚出身の新人映画女優「檀れい」は、役割をわきまえた好感に繋がる演技力が、キムタクの華をうまく引き立てている。

そのため俳優のキャラに左右されることなく、安心して観ることができるから、幅広い年齢層に受け入れられるだろう。

ただ、ここまでできるのなら、もう少し・・と「ないものねだり」をしたくなってしまうのも事実。

サムライの精神に関わる部分でのストーリーなので、もっと重厚さ、荘厳さ、気高さ、奥深さといった部分の領域へ一歩踏み込んで欲しかったなというのが、正直なところ。

「ラストサムライ」が持っている映像のあの「重」い味のベールを何枚もはぎ取ったかのような軽さが、良くも悪くもこの映画の特徴だといっていいだろう。

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最も気になったのは、丁寧な描写と引き替えの、テンポの悪さだ。

前半では特に展開の遅さが気になってしまう。

さらにライティングのせいで、庭などのセットが作り物臭いとか、まだセリフでもって説明しすぎるとか、従来の日本映画が持っていう弱点をいまだに引き摺っているのが残念な部分だ。

だが、そうしたレベルを求めなければ、トータルで、なかなかよくできた娯楽作品だ。

妙なあざとさや、過剰な思い入れなどの、気になる演出が全くないため、安心して見ていられるこの味付けは、長年にわたる監督のキャリアのなせる技なのだろう。

見終わったアトで、観客に考えさせてしまうというような強いインパクトこそないが、その部分はこの先、徐々に備わってくることを期待したいし、またそうなって欲しいと思う。

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