復興とマイクロバブル続編2

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復興とマイクロバブルの続きです。

科学技術振興機構社会技術研究開発センターの東日本大震災支援プログラムの選考過程がわかるようなまとめです。

大成さんご自身のブログによる解説です。

 

・・というわけで、大成さんのブログから転載させていただきます。

 

2011年6 月 8日 (水)  東日本大震災復興支援の夏(1150回記念)(3)

調査員の方を見送った後で、今回の東日本大震災支援プログラムが持つ意味をじっくり考えてみました。

まず、これは東日本大震災に関する緊急支援の公募であり、たしか120数件の応募があったとのことでした。

もともと、この公募の主旨は、すでに実績があり、それを用いて復興支援に確実に役立つものであることが優先されることにありました。

いわば、すぐに対応できて、震災後における社会経済的価値に富む課題を背負っての競い合い、アイデア対決が、その審査でなされたのだと思います。

そのとき、震災・津波の大災禍のなかで、何が最も有効か、このアイデアに関する、「鋭く、大きな直観(intuition)」が必要とされたのではないでしょうか。

そして、どのようなアイデアで勝負しようかと考えたあげく、ここは、もっとも確実で、実績がある海の浄化問題がよいということを思いつきました。

「そうか、私には、これがあったのだ」と、このアイデアを思い浮かんだ後は、ストンと妙に納得する気持ちになりました。

この推測の通り、海の問題を取り上げ、マイクロバブル技術を適用しようとしたことが評価されたようで、その候補に残ったとのことでした。

「海の蘇生のことを取り上げた応募はあったのですか?」

こう尋ねると、ほとんどなかった、唯一のテーマだったとのことだそうで、この点でまず他との差別化に成功したのだと思いました。

そこで、次に問われたのが有用性です。実際に、あの広い海域で何をどうするのか、ここに現実性と有効性がなければ、絵に描いた餅で終わってしまいます。

そこで、広島カキ養殖、北海道噴火湾のホタテ養殖、三重英虞湾の真珠養殖などの実績をしっかり示すことが大切だと思い、これらに説得力を持たせることにしました。

思えば、何もわからずに、「頼みの綱はマイクロバブル」と思って、無我夢中で取り組んできたことが、今も脳裏に蘇ってきます。

幸運にも、これらに成功し、少なくない実績を得たことが、今度は、この復興支援に結び付こうとしているのだと深く認識できました。

「これは、大変なことになりそうだ!」

「今度は、もっと、それを大規模に発展させ、東日本大震災で被害を受けた方々を救う必要がある!」

いまだ、「候補」の段階でしかなかったのですが、このような思いが、幾度も脳裏を過っていきました。

「さて、これから、どうなっていくのであろうか?」。

調査員を見送った後で、遠望した瀬戸内海が明るく見えていました(つづく)。

 

2011年6 月10日 (金)  東日本大震災復興支援の夏(1150回記念)(4)

120数件の応募の中から採択の候補のひとつになれたことから、それがもたらすものについてより真剣に考えるようになりました。

「もしかして、採択されることになれば、どうしようか。何をどのようにすればよいのか?これをもっと真剣に、そして詳しく考えなければならない」

しかし、もう一方で、次の考えも過りました。

「まだ、候補の段階だから、それが本決まりにならないかぎり、何もならない。決まってからでないと何も考えられない」

それにしても、閉鎖海域とはいえ、あの広い海をどうするのか、この命題も頭の中に浮かんできました。

これは、1998年に、広島カキ養殖改善に取り組む時に真正面から問いかけられた命題でもありました。

あのときは、若い研究者に、「あの広い海で何ができるのですか?」とまでいわれ、それでふかう動揺してしまった私でしたが、今度は、それから幾分成長を遂げてきましたので、その次元で留まることはありませんでした。

それに、今回は、とてつもない破壊と壊滅がもたらされた東日本大震災に立ち向かうのですから、そんな弱気ではとても通用するはずはありませんでした。

そこで、今回の東日本大震災支援プログラムに応募するために、いろいろと考えたことをもう一度呼び起こしてみることにしました

これまでの広島湾、噴火湾、英虞湾、そして有明海、いろいろと試してきたのですが、それらの方式と規模では、おそらく、この困難を解決することはできないであろう。

それでは、どうすればよいのか、これを具体的に検討するために、まず、これまでの装置の検討から開始することにしました(つづく)。

  

2011年6 月11日 (土)  東日本大震災復興支援の夏(1150回記念)(5)

今夜のNHKスペシャルは、震災後3カ月の特集がなされていました。いまなお、100年以上もかかるという瓦礫の山が、地上に、そして海の中に残っています。

仮設住宅はできても、その半数が入居できていないようで、その主な理由は、仮説住宅に入ることは自立とみなされて、食糧の供給がなくなるからだそうで、その入居よりも、いま食べれることの方が大切だと思われている方々が少なくないからだそうです。

また、仮設住宅に入っても、先行きが不安で、仕事が見つからない、これから、どう生きていけばよいのか、それがわからずに暗くなってしまう、このような方々が少なくないようです。

被災から3カ月、先が見えないまま、「もう限界」という声が上がり始めています。「いったい、国は何をしているのか」、このような声が上がり始めています。

現地では、自治体と住民の懇談会が開催されていますが、そこでは、まず瓦礫をなくし、そしてしっかししたビジョンをまず、自治体側が示すべきだという意見が続出しています。

自治体側も、そのビジョン作りを検討しているのですが、そこで必ず問題になるのが、国の方針が明確になっていないことから、肝心のことがいくつもわからない、決まっていないので何もできない、結局、この問題にぶっつかってしまうのです。

そこで、自治体の中には、国の方針が決まるまで待っておれないと独自の進むべき方向を模索し始めているところがあります。

そのなかに、根こそぎ、それこそ何もかも奪われてしまったので、新しい産業を起こせるような知恵や学者を集めるようにしなければならないというすばらしい指向がありました。

これは、ある意味で、その模索の結果に導かれた当然の帰結であり、被災を受けた自治体が、そのような社会的経済的価値を生み出すシステムについて考えを及ぼすようになったことには小さくない意味があります。

私は、この4年間、ある学会に設置された「ブレイクスルー技術研究所」の所長を務めてきましたが、その活動を通じて考えてきたのは、その価値を生み出せるような科学技術的成果を生み出すには、なにをどうすればよいかということでした。

そして、このような災禍のなかでこそ、その生活と産業を創成することが可能な学問こそ本物と考え、それを「ブレイクスルー技術」と呼んできました。

いまこそ、このブレイクスルー技術の創成のために、多くの学者が力を合わせる「天の時」が来ており、その軸の一つとして、全国的な高専連携があるのではないかと思います。

この連携によって、全国51の高専が知恵を出し合い、持ち寄り、練り上げ、そして、自治体と一緒になって実践的に確かめる、このような試みが今求められているのではないでしょうか(つづく)。

 

 

2011年6 月14日 (火)  東日本大震災復興支援の夏(1150回記念)(6)

まず、広島湾の事例から振り返ることにしましょう。この時は、最初のマイクロバブル技術の適用ですから、いろいろな試行錯誤がありました。

「ひょっとしたら、この泡でなんとかできるかもしれない」

見学に来たカキ養殖業者の直観がきっかけで、この取り組みを行うことになりました。

このとき、今のM2-L 型装置をカキ筏用に改良し、それを200V の水中ポンプ(海用の750W 出力)に2機設置して、それを1セットにした装置を開発しました。

次に問題となったのが、このセットをいくつつくればよいかでした。広島のカキ筏は、縦22m、横11mであり、通常は、これが2つ接合されていて、合計で22m四方の広さでした。

この284平方メートル内に、何セット用いればよいか、それが解らなかったのです。

そこで、現場に赴き、実際にマイクロバブルを発生させて、その拡散状況を観察し、5セット(10機)程度が必要であると判断しました。

ここで1機あたりの広さを求めますと約28平方メートルとなります。これは5m×6m程度の四方のなかにマイクロバブル発生装置が1機の割合とやや密になりますが、これが結果的に功を奏することになりました。

なぜなら、マイクロバブルが隣の筏に流れたらどうするかという心配もなされたのですが、それは海中に吊り下げられたカキが制約になって、そのカキ筏中に、ほとんどのマイクロバブルが留まっていたからでした。

同時に、大半のマイクロバブルは上昇しながら収縮を遂げますので、その過程で海中に消滅・溶解してしまうことも観察することができました。

このマイクロバブルを高濃度な状態で供給する方式が結果的によい結果をもたらしました。

そして、マイクロバブルにカキが反応し、大幅な血流促進を伴う生理活性現象が起こるという重大な発見をすることができました。

この活性によって、カキは見事に成長し、成貝になるまでに大幅な時間短縮(従来の約半分)を遂げることができるようになりました。

また、マイクロバブルの供給時間も現場での適用の結果、夏場は3日に1回、一日5時間、冬場は2週間に1回5時間程度という目安も明らかになりました。

この場合、夏と冬で、なぜ異なるかといいますと、前者では海水が高温になるためにカキの代謝が活発になり、それだけ酸素や栄養(プランクトン)がより多く必要になりますので、その分をマイクロバブルで補強するということが重要でした。

また、夏場の高温状態では、酸素が不足気味になりますので、その貧酸素化を防ぐことも有効でした。

もう一つの利点は、マイクロバブル発生装置を船で自分のカキ筏に自由に持って行ってマイクロバブルを供給できるようにしたことでした。

これで何か所ものカキ筏にマイクロバブルが供給できましたので、機動性を発揮できたことも注目を集めることになりました。

このように、カキ筏専用の装置開発になりましたが、それはあくまでもカキ養殖業者の筏でのマイクロバブルの供給に焦点を当てた開発でした。

すなわち、江田島湾や広島湾規模の比較的大規模な海域でのマイクロバブルの供給には至らなかったのです。

その意味で、マイクロバブルが拡散するとはいえ、その適用範囲は、個々のカキ筏に限られたものでしかありませんでした(つづく)。

 

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このページは、hatchが2011年6月26日 08:17に書いた記事です。

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