抗ガン剤が効かない根源的理由

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心臓病や脳卒中など多くの病気の死亡率が低下し、検査法の進歩によってがんの早期発見も増えています。

早期発見の増加によって、がんの治癒率はみかけ上良くなっています。

しかし、がんで死亡者数は減らず、進行がんの治療に関しては、進歩が無いと言わざるを得ません。

 

世界最大の英文ビジネス誌であるフォーチュン(Fortune)誌の2004年3月号に、フォーチュン誌の編集長であるクリフトン・リーフ(Clifton Leaf)氏が、「Why we're losing the war on cancerなぜ私たちはがんとの戦争に負けているのか)」という題の有名な記事を載せています。

 

今回はその要旨を、かいつまんで引用させていただきます。

  

 

ガンの実験モデルの欠点

 

  
私たちの細胞の働きは遺伝子(DNA)によって調節されています。

ある種の遺伝子が異常(変異)を起こすと、無制限に増殖し、さらに他の臓器や組織に転移するのがガン(癌)です。

 

そして、がんの研究は、まず変異した遺伝子が引き起こす細胞の分子メカニズムを解き明かし、ついでそれを阻止する薬を見つけることが中心になります。

人間のがん細胞の研究で最も多く利用されている方法の一つは、ヒトのがん細胞をシャーレの培養液の中で育て、それを免疫不全のマウスに移植して増殖させ、開発中の医薬品を投与して、マウスに移植した人間のがんが縮小するかどうかで評価する実験法です。

  
これは抗がん剤の開発における前臨床試験の一つですが、このような前臨床試験の多くが、人間に発生したがんの治療に対する有効性を予測することができない、ということは20年も前から多くの研究者が指摘しています。

ヌードマウスと病院のガウンを来た人間の間には、遺伝子構造や臓器システムに類似性はありますが、この2つの種は、生理機能や組織構造や代謝率や免疫システムや細胞内分子伝達系など様々な点において違いがあります。

   
したがって、マウスと人間に発生したがん細胞にはかなりの違いがあるのです。

 

アメリカの最も有名ながん研究者のひとり、マサチューセッツ工科大学(MIT)のロバート・ワインバーグ(Robert Weinberg)博士は、「がん研究全体において解決されなければならない根本的問題は、治療という観点から見た場合、人間のガンの前臨床モデルのほとんどが、とんでもない代物だということ」と述べています。

 
ハーバード大学のブルース・チャブナー(, Bruce Chabner)教授も同様の不満を述べています。

 

研究者がマウスに作り出している"インスタント腫瘍(instant tumors)"は、人間に発生するがん細胞のもっともたちの悪い性質を正確に有していないのです。

この性質というのは、人間のがん細胞では遺伝子変異が次から次に発生することにあります。

  

つまり、人間のがん細胞は極めて複雑な遺伝子変異をもっているからです。

 

多くの研究者は同様な方法でがんの研究を行ってきています。

すなわちマウスの細胞のがん遺伝子やがん抑制遺伝子を変異させて作成したがん細胞を使っているのです。

 
「がん研究者は肺がんの実験モデルを確立したと言っているが、しかしそれは人の肺がんの実験モデルではない。なぜなら、人間の肺がんは100種もの変異があるからだ。遺伝学的にこれ以上複雑なものは誰も見たことがないだろう。」とチャブナー博士は述べています。

 
かつて製薬会社のイーライリリー社でがん研究と臨床試験を担当していたホーマー・ピアス(Homer Pearce)氏も、マウスの実験モデルは人間のがんの治療薬の効果を評価する目的では全く不適当であるという意見を述べています。

「多くのマウスのがんがその薬で治っている。しかしその薬は人のがんにはあまり効いていない。人間のがん治療では転移するがんを治療しなければならないからだ。つまり、マウスの実験モデルには欠陥があるということを理解しなければならない。」

 
「企業や大学などの研究者の99%は動物の移植腫瘍を使っている。なぜマウスの移植腫瘍の実験モデルがそんなに多く使用されているのか。その答えは簡単だ。それは、この実験モデルが非常に便利で、容易に操作できるし、腫瘍の大きさも簡単に計測できるからだ。」と、製薬会社ジェネンテック(Genentech)社の分子腫瘍学研究の副社長であるビシュバ・ディキット(Vishva Dixit)は述べている。

 
この問題を製薬企業は十分に理解しているのですが、それを修正しようとはしません。

 
毎年、製薬会社はこれらのモデルを使用して数億ドルを浪費しているのが実態です。

 
さらに問題なのは、薬を開発する研究者がこのような欠陥のある実験モデルを信頼しているために、人間のがんに本当に効く薬が見逃されている可能性があるということなのです。

マウスのがんに効く薬が人間のがんには効かない場合があると同様に、その逆にマウスのがんには効かないが人間のがんには効く薬もあるのです。

  

このような間違った実験モデルのせいで、人間のがんに本当に効く可能性のある何十万という化合物が、過去20年の間に捨て去られたかもしれないのです。

MDアンダーソン病院の研究者兼臨床医で、イレッサなどの肺がんの治療薬の臨床試験を担当したロイ・ハーブスト(Roy Herbst) 博士は、そのようなことがしばしば起こっているということを確信していると述べています。

 

もし、多くの人がその問題に気づいているのであれば、なぜそれを改めようとしないのか。

  
その理由は、「第一に、マウスの実験モデルと代わりうる適当な実験モデルが無い。第二にFDA(食品医薬品局)の怠慢で、いまだにマウスの実験モデルが薬の有用性を予測する方法として認めているからである」とワインバーグ博士は語る。

  

  

私たちは良いアイデアが不足している

  

  
「鶏が先か卵が先か」という質問と同じような悩ましい問題が、がん研究にも存在します。

医薬品を評価するFDA(食品医薬品局)の間違った基準が先なのか、薬をテストする製薬会社の不完全な実験モデルが先なのか?


薬の開発の初期段階においては、欠点だらけの動物実験の結果から、研究者はその薬が人間の腫瘍にも効果があるであろうと間違った考えをもたらすのです。

さらに、最後の段階の臨床試験において、FDAが有効性を評価する指標としてがんの縮小率を採用しています。

 
マウスや人間の腫瘍が縮小するのを見て、薬がそのような効果をあげていることを知るのは刺激的なことです。

腫瘍が縮小するのは直感的に良い現象だと思うのは当然のことでしょう。

 

腫瘍の縮小率が多くの臨床試験における評価基準となることは、決して不思議ではありません。

しかし、腫瘍の縮小はそれだけでは、実のところ、がんがさらに進行するという予兆にすぎないのかもしれないのです。

 

抗がん剤や放射線で腫瘍が縮小すれば、手術で切除しやすくなります。

しかし、がん細胞を完全に取り除くことができなければ、腫瘍の縮小は生存の確率を高めるものでは無いという悲しい事実があります。

 

多くのがんは、診断されたときにはぶどうの実ほどの大きさになっており、そのがん組織の中には数十億個のがん細胞が存在しているのです。

そしてがん組織が見つかるころには、すでに一部のがん細胞は原発巣から離れて血液やリンパの流れに乗って全身に転移しています

 

この転移が多くのがん患者の死亡原因となっているのです。

 
がん研究者はこの油断ならない現象について何年も研究してきているだろうと思われるかも知れませんが、事実は全くその逆なのです。

フォーチュン誌は、1972年まで遡って国立がん研究所の助成金について調べ、転移に関する研究を主にしている申請は全体の0.5%未満であることが明らかになっています。

  

昨年助成金が与えられたおよそ8900の研究申請のうち、92%は転移という言葉すら含まれていなかったのです。

 

M.D.アンダーソンがんセンターのフィドラー(Josh Fidler)によれば、がん研究者は転移に関する研究を避ける傾向にあり、その理由は難しく、非常に成果の上げにくい分野だからです。

その代わりに、研究者は、実験室で測定可能な結果を生むとわかっている技術や手段に集中することになります。

 
製薬会社もがんの死亡の直接原因である転移のメカニズムの解明や、転移を防ぐ薬の開発は困難であることを十分に知っているからゆえに、腫瘍の縮小(これはがん患者の生存とは関係ない)に集中せざるをえないのです。

そして、腫瘍の縮小で評価された新薬が数多く認可されてゆくのです。

 
2003年8月に発表されたBritish Medical Journalの論文は、最近発売された新薬に対して手厳しい評価を与えています。

1995年から2000年の間にヨーロッパで承認された12の新しい抗がん剤の臨床試験の結果を、2人のイタリアの薬学者が検討した結果、これら12の新薬のどれも、生存期間や生活の質や安全性において、それまでの薬と比べて優れた面が無いことが明らかにされたのです。

しかし、これらの新薬はそれまでの薬よりも数倍も値段が高く、中には価格が350倍のものも含まれているのです。

 

 

なぜ新薬は私たちを失望させるのか

 

 
新薬開発における欠点だらけの実験モデル

腫瘍縮小率へのこだわり

 

細胞内の細かい分子メカニズムだけに注目し、体全体の働きに対する視点の欠いた要素還元主義

基礎研究から臨床試験を経て行われている新薬開発のシステムには、このような多くの問題点があるのです。

 

このような欠点だらけのプロセスが、新薬が国から認可される唯一の方法であることに、多くのガン患者は不満を感じているのです。

2003年2月、がん研究の専門家から構成される委員会は、次のように結論づけました。

 

臨床試験は時間がかかり骨が折れる仕事であり、様々な規則に縛られ、大きな変化やより良い財源も無い。

このような臨床試験のシステムは非効率的で、鈍感で(目的を正当に達成せず)、不当に費用がかかるばかりだ。

  

がん患者は、この臨床試験のプロセルが利益にならないと知っているので、成人ガン患者の97%は臨床試験に参加したがらないのです。

 

 

臨床試験の2つの大きな問題点

 

 

まず第一に、臨床試験は長い期間と莫大な費用がかかるということは、その臨床試験を実施する製薬企業は、FDA(食品医薬品局)に認可されやすい薬の開発を優先することになります。

株主は企業に投資に対する見返りを常に求めています。

 

したがって、臨床試験を行う企業は、失敗しやすい画期的な新薬の開発でなく、従来の薬を少し改良しただけの成功する率の高い薬の開発を優先しているのです。

つまり、新薬の開発のために要する、平均12~14年の期間と8億ドルもの費用のため、勇気のある新しい発想による画期的な新薬を開発するリスクを受け入れがたくなっているからです。

 

さらに、このシステムは、最も有望な新薬を、病気の進行した患者にテストすることを製薬企業に求めています。

この場合、病気を治すことではなく、「腫瘍を縮小させる効果」など特定の活性を評価する方が簡単なのです。

 

進行したがん患者では、がん細胞は全身に広がり、がん細胞の遺伝子変異も多くなって悪性度が高まっています。

早期のがん患者には効果を期待できても、進行がんには効果が出ないというのは、こうした理由からです。

 

第2の問題点はさらに大きく、臨床試験は間違ったゴールに向かって行われています。

つまり、病気を治す(生命を救う)というゴールではなく、科学的に正しいことを目標にしているのです。

 

これは臨床試験が悪い治療だという意味ではありません。

臨床試験の患者は特に良い治療を受けているといってもいいでしょう。

 
ですが臨床試験が行われる真の理由は「治療Xは治療Yより勝っているか?」という仮説をテストすることにあるのです。

そして多くの場合、非常に長い期間かかって得られた結果は大した利益をもたらさないのです。

  

もし、10年以上かかって、既存の薬によるスタンダードな治療に比べ、新しい薬の腫瘍縮小率が平均10%高いということが判っても、それで何人の患者を救えることになるのでしょうか。

 

大腸がんの治療薬としてErbitux(エルビタックス)とAvastin(アバスチン)が2月に認可されました。

 

それぞれ、臨床試験に必要な患者を集めるだけで何ヶ月もかかっています。

臨床試験に参加する医師は難解な事前に設定されたプロトコールに従って薬を患者に投与し、多くのデータを集めます。

 

約400例の末期の大腸がん患者に対して、標準の抗がん剤治療にアバスチンを併用すると、平均4-7ヶ月の延命効果が認められました。

ですが、その前に行われた乳がんの臨床試験では有効性は認められなかったのです。

 

この臨床試験で対象になったような進行した大腸がんの生存期間は16ヶ月以下であるため、4.7ヶ月の延命効果は十分な有効性だと多くのがん専門家は考えているのです。

 

エルビタックスの場合はどうだったのでしょうか?

確かに、腫瘍を縮小させる効果は認められました。

 

ですが、患者の生存期間を伸ばす効果は認められなかったのです。

一部の患者では薬の効果が認められても、平均の生存期間は向上しませんでした。

 

しかし、エルビタックスは、他の治療薬の効果が認められなくなった後に使用するサードラインの治療薬として認可されたのです。

1週間に2400ドルも費用がかかる薬です。

患者の生存期間を伸ばす効果は、認められなかったのにです。

  

 
人間での試験の初期の段階で医師や研究員がすでに知っていたことは次の点です。

「どちらの薬も、大腸がんで亡くなる年間57000人のうちごくわずかしか救うことができない

 

この事実を確認するために、数千人の患者と数年の期間と、膨大なデータと莫大な費用がかかった、ということを忘れてはなりません。

   

 

このように、腫瘍縮小率へのこだわりや、細胞内の細かい分子メカニズムだけに注目した要素還元主義的な方法論について、リーフ氏は疑問を投げかけています。

 
また、製薬会社の利益追求が、がんのメカニズムや抗がん剤開発の最強の推進力であることは間違いありません。

QOL(生活の質)の改善を目指しながら、体全体の治癒力や抵抗力を高めてがんとの共存や延命を目標にする漢方治療の考え方や方法論があまり注目を浴びないのは、このようながん研究そのものの体質にあるのかもしれません。

   

  

引用資料

   

新薬はなぜ私たちを失望させるのか

   

  

 

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今までの人生で経験した事のない怒りを抗癌剤に対して抱いていたところでした。

「腫瘍の縮小と延命の為に抗癌剤の点滴を始めます。」と言う医師の説明を私が聞いてから7か月・・・
その患者は抗癌剤の副作用(脱毛、下痢、白血球の減少)に耐え続け、
原因の判らない痛みに耐え、それなのに腫瘍の縮小どころかレントゲンには転移の影すら写っているとのこと。

抗癌剤の怖さは
一度始めたら自分から「もう嫌だ!止めます!」と言いださない限り
注射の間隔を伸ばしたり、量を加減したりして患者の身体が耐え切れなくなるまで続けられてしまう所にあるのではないか・・・・
私にはそう思えてなりません。

「副作用が軽い抗がん剤だから」とか「今の抗癌剤は昔ほど副作用が強くないから」とか、「再発を予防する為の抗癌剤」とか、
もしも私が患者から又聞きしたこれらの言葉が医師の説明と違っているのだとしたら
医師は、病院は、もっと患者に解りやすく説明しなければいけないのではないでしょうか。

「QOL(生活の質)の改善を目指しながら、体全体の治癒力や抵抗力を高めてがんとの共存や延命を目標にする漢方治療の考え方や方法論」をもっともっと、広めてほしいと願うばかりです。


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